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認知症における食の行動心理徴候の対応

アルツハイマー型認知症(AD)

アルツハイマー型認知症とは、40-90歳での発症で脳卒中様の発症がみられず記憶と認知機能がゆっくりと進行性に悪化し、意識障害がなく、原因となる全身・脳疾患がない場合の認知症です。多くは、時間⇒場所⇒人の順番で記憶が低下し、並行してとりつくろい・短期記憶・エピソード記憶※1などが起こり、さらに失語・失行・実行機能障害※2の経過をたどり約10年で死に至る疾患です。

@ HDC 認知症食支援対策チーム

※1.エピソード記憶:個人的に体験された出来事についての記憶
※2.実行機能障害 :目的をもった一連の行動を自立して成し遂げること(料理の味付けなど)

食のBPSD(記憶・失語・失認・失行・実行機能障害に伴う食の行動心理徴候)

認知症の方をお世話するときの心がまえ

進行の度合いにより認知症状の現れ方は人さまざまであり、日常生活場面を含めた個別的な対応となりますが、認知症だからといって特別な疾患が無けれ ば、特別な食事は必要ありません。
またアルツハイマー型認知症では、終末期に至るまで嚥下機能は比較的保たれています。
認知症の場合、汚したり食べるのに時間がかかったりしても叱ったりせず対等に接して、一緒に楽しく食事のお世話をする心構えが大切です。
この食の問題を解決するためには「どんな人が認知症になったのか?」までをさかのぼって考えることが重要です。

■ 食べる前の準備

覚醒

点灯・窓を開け太陽の光や爽やかな空気を部屋に入れる。
顔・首・手を暖かいタオル(水で絞ったタオルを電子レンジで1分チン)を使いリラックスしたり、軽く肩もみなどを行いながら声かけで覚醒を促してみましょう。
⇒ 食事中の傾眠からの覚醒にも利用できます。

認知症者への声かけの特徴

指示をしないで誘導する声かけ「○○してください〜」というような声かけをしないようにしましょう。
「起きましょう。さあ座りますよ。あちらへどうぞ。食べさせたい食品を指さして、こちらをどうぞ」というような声かけを心がけましょう。

ポジショニング

深く腰掛け足底が床に全面着地し、椅子とテーブルの位置関係を調節することで、肘の位置とテーブルの関係を調整します。
そして、左右前後の傾斜もクッションなどを利用して確認し、食事内容がよく見えるようにしましょう。

認知症の軌道と食の問題

認知症の軌道と食の問題

認知症の経過と食のBPSD

軽度(2-3年) 中等度(4-5年) 重度(2-3年)
症状 記銘力低下
失見当識(時間)
失認・失行(着衣・構成)
失語・実行機能障害
失禁・歩行障害
寝たきり・無言・無動
口腔の
問題
口腔保清
歯科受診困難
義歯管理困難
口腔保清困難
咬合崩壊過程(咀嚼力)
義歯着脱困難
誤嚥性肺炎リスク
咬合崩壊
義歯使用困難(咀嚼力)
摂食の
問題
記憶障害(食事)
食具使用の記憶
記憶障害(食べ方)
失認(食物の判別)
失行(咀嚼・嚥下)
食形態の低下(混乱)
窒息・誤嚥・低栄養
食事介助困難

※見当識:今いる場所がどこであるか、または今は何月何日、何曜日であるのかなどの場所や時間を認識する精神作用のことです。さらに自分のことや周囲の人達のこともこれに含まれます。

重度期における三大食事介助困難(口を開けない・噛まない・飲み込まない)の改善と、最後まで形ある食材を摂取しソフトランデイングしながら胃瘻を見直すためには、早期からの口腔ケアの介入と、咀嚼の維持を含めた末期までの口腔管理がとても重要となります。
また、栄養や歯科という一職種完結対応ではなく、家族や介護職を含めた多職種連携が必須です。

食事介助

(1) 水分介助

  • スプーン1杯程度の水分やゼリーなどを交互嚥下させることで、嚥下後に残留した食物残渣を一緒にまとめて嚥下を促します。
    (食物⇒水分⇒食物)

(2) 移しかえ

  • 食べ物を移し変えている場合は、盛り付けや配膳などをしているつもりのため、集中しているので口元は開きません。
    声かけして気分転換を図り、目が合ったところで再度食事を促してみます。

(3) 飲み込みの促し

  • 口に溜め込む場合は、唇をすぼめた状態で下顎が少し下がっています。
    声かけをしても、うなずきだけで発語はありません。
  • 唇に空の湯呑や、空のスプーン等を押し当て「今飲んだよ」「今食べたよ」など刺激を与えて、飲み込みを促します。
  • 湯呑を唇に当て口すぼめの状態を促すと、舌の動きが出てきたり口に溜まった水分を嚥下する場合があります。
  • さらに口が膨らんだままで、食べ物が溜まった場合は、歯と頬の間に溜まった食塊を箸で前方にかき出すと、口が開き食べ始めます。
  • 冷たいスプーンを舌の中央に置き、舌を押すなどの刺激を与えるとモグモグする場合があります。
  • それでも無理な場合は、洗口などで食物残渣や粘った唾液を取り出し、口をキレイにします。

(4) むせないように

  • 口へ運ぶスピード、咀嚼の回数、嚥下してから介助など、よく観察し、本人の呼吸やリズムに合わせて介助しましょう。
  • 朝食の始まりは、窒息の発生が多い時間帯です。

(5) 食事中に義歯が外れた場合

  • 義歯が落ちても、義歯である認知がなく戻せられない場合は、お箸で上の義歯の上あごの部分を押さえて正常位置に定められ、リセットできれば食事を続行しましょう。

(6) 食事介助中止の目安(補助栄養の検討)

  • 傾眠が強く集中力が途切れる
  • 水分を入れても嚥下反射が起きない
  • 口唇を触ってもモグモグした運動が起きない
  • むせ、咳き込みが続く
    (むせた時は一呼吸以上間を置く←残留物の誤嚥に注意)
  • 時間がかかりすぎる
    (40分以上)
  • 呼吸の乱れがある

(7) 認知症者が安全に食べている目安

  • 笑顔で食べていて、食欲のある方は、ほぼ問題がないと考えて良いです。

特異な食行動への対応

(1) 過食(目の前にある物など、四六時中食べ物を欲する)

  • 話しかける
    「今、おじいちゃんの食事を分けて作っているので待って下さい」「今日はもうたくさん食べたから、明日にしましょう」など言ってもわからないと思わないで、話しかけることは大切です。
  • 一時しのぎをする
    おやつや軽い食べ物を用意しておき食べ物を求められたら、「これを食べて待っていてください」と少しだけ食べものを渡し、食事まで待ってもらう。
  • 食べ物以外のことに関心を向ける(気をそらす)
    食事はお年寄りの最大の楽しみ。他に関心が向かないと、食事だけを楽しみにしてしまいます。散歩をしたり、興味のあることに気を向かせましょう。
  • 量を減らして、回数を増やす
    一度に食べる量を少なくし、何度も分けて食べられるようにしてみましょう。

(2) 被害妄想

  • 食事を作る人が料理に毒や虫を入れたと思って、食事を口にしないケースなど。
    一番信頼している人と一緒に食事をしてもう。「食べても大丈夫」ということを示してあげれば、安心して食べることがあります。
  • 興奮をした時に手で食事をつかんで投げ捨てる
    別皿に少しずつ入れて被害を少なくするなど工夫をする。心を落ち着かせる話し方や楽しそうな話題を増やし、時間がかかってもイライラしないように心がけましょう。

(3) 盗食

  • 食卓の隣に座っている人の料理をとって食べる。夜中に台所でコソコソ食べるなど
    周りにいる人が盗られないように気をつける
  • 冷蔵庫や棚などから盗み食いする場合
    手の届くところに食べ物をおかないこと。食べ物の入っているところにカギをかけます(冷蔵庫に鎖をかける場合もあります)。

(4) 異食

食べ物を認識することができなくなり、土や花(観葉植物)、洗剤など、異物を口にしてしまう。石鹸やポータブルトイレのそばの消臭剤を飲むケースはよくあります。

  • 目につくところに置かない
    目につくところ、手が届く場所に置かないこと、これしか方法はありません。できるだけ目より上に置くようにし、 危険物のある台所や浴室には入れないようにドアにカギをかけます。特に危険なものは、必ずカギのかかる棚などにしまいます。
    いずれにせよ、そばについている人が気をつけていることが一番です。
  • 対応は早急に
    口に入れたことに気がつけば、すぐに対処します。指をかまれてケガをしないように、手近にあるタオルなどを指に巻き、グッと口に突っ込んで吐き出させます。その後、口の中を洗います。危険物の場合は、すぐに主治医に連絡しましょう。

(5) 拒食(食べる行為を忘れる。体の不調を言い表せずに食べないこともある)

  • 好物を出してみる
    好きな食べ物子供の頃の思い出の郷土料理など、好きなものなら食べることがある。
  • 食べられるときに食べたいものを食べる
    食事は1日3回だと決めず、口に入るものを食べられるときに食べてもらう。
  • 栄養補助食品を活用
    拒食の状態が長く続けば、高カロリー食品などを使うのもひとつの方法。
  • 目先を変えて
    盛り付けや食事の演出を変える。料理の味付けや調理法を変えてみます。